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東京地方裁判所 平成3年(特わ)1693号 判決 1992年1月28日

本籍

東京都江東区南砂三丁目一七六二番地

住居

千葉県船橋市海神町西一丁目一一九三番地の一号 西船ファミリーマンション九一三号

会社役員

横山健一

昭和一〇年三月三一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について当裁判所は検察官西村逸夫、弁護人赤松幸夫各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金二五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は東京都江東区南砂四丁目一七番八号に居住し、株式会社横山の代表取締役として鮮魚商を営んでいた者であるが自己の所得税を免れようと企て、自己が保有していた不動産を売却するのに際し、その譲渡収入の一部を除外する方法により所得を秘匿した上、平成元年分の実際総所得金額が六〇二万六七八〇円、分離課税による長期譲渡所得金額が五億七一二七万二〇〇〇円(別紙修正損益計算書のとおり)であったのにかかわらず、平成二年三月一五日東京都江東区亀戸二丁目一七番地八号所轄江東東税務署において同税務署長に対し、平成元年分の総所得金額が六〇二万六七八〇円、分離課税による長期譲渡所得金額が一億六一四七万円で、これに対する所得税額が三八五二万三二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法的納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億四〇九七万三七〇〇円と右申告税額との差額一億〇二四五万〇五〇〇円(別紙税額計算書のとおり)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  下田幸雄、村杉亨の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の譲渡収入調査書

一  大蔵事務官作成の譲渡費用調査書

一  江東東税務署長作成の証拠品提出書

一  押収してある所得税確定申告書等(平成元年分)一袋(平成三年押第一一七〇号の1)

(法令の適用)

被告人の判示所為は所得税法二三八条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑及び罰金刑を併科し、情状により同条二項を適用し、所定刑中被告人を懲役一年及び罰金二五〇〇万円に処することとし、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

被告人の本件犯行は、店舗改装賃金等を得るために被告人が所有していた茨城県つくば市小野崎所在の七二九平方メートルの土地を売却するに際し、当座に必要な二億円を超える売却代金は裏取引として脱税しようと企て、仲介業者の東亜興業株式会社社員の村杉亨、有限会社三野里不動産の松間専務らと相談して下田幸雄が代表取締役をしている有限会社守建設をダミーとして介在させて買主の東郷商事株式会社に六億六〇〇〇万円で売却するにもかかわらず、有限会社守建設に二億二〇〇〇万円で売却したかのように装って、その旨の架空の売買契約書を作成するなどして四億四〇〇〇万円の譲渡収入を秘匿したものであって、免れた税額は判示のとおり一億〇二四五万〇五〇〇円、脱税率は七二・六パーセントにのぼる高額、高率であって、犯情は悪質としてべきである。

しかしながら、被告人は当公判廷においては勿論、査察段階から素直に自己の非を認め、二度と脱税に及ばない旨反省の情を披瀝していること。本件脱税について脱税協力金などの名下で八〇〇〇万円を出損しているほか、松間専務らが被告人には六億六〇〇〇万円で売却するとしておきながら、実際には東郷商事株式会社には七億五〇〇〇万円で売却し、差額の九〇〇〇万円は松間専務らが取得していたことが判明し、自己の行為の愚かさを十分に認識しており、前記誓約に信用が措けること。平成三年五月三〇日に修正申告をして本税一億〇五一八万五五〇〇円、過少申告加算税二七万三〇〇〇円、重加算税三五八五万五〇〇円、延滞税七九〇万九五〇〇円をすべて完納しているほか、地方税三一五五万五六〇〇円も納付済みであること。従前なんらの前科前歴もないことなど酌むべき事情も存する。

以上の各情状のほか、その他諸般の事由を勘案し、その刑の量定をした次第である。

よって主文のとおり判決する。

(求刑・懲役一年及び罰金三〇〇〇万円)

(裁判官 伊藤正髙)

別紙

脱税計算書

<省略>

別紙

修正損益計算書

<省略>

(分離課税長期譲渡所得)

<省略>

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